Project-Itohの三部作の第二弾(本当は第三弾になる予定だったけど)、「ハーモニー」を見てきた。前回の屍者の帝国で少し残念な思いをしているだけにちょっと心配だったけど、うまく映像化されていたと思う。
原作は読んでいたから内容はだいたい知っていたんだけど、視覚的にその特殊な世界が補完されてとてもおもしろく見ることができた。
以下感想をつらつらと。ネタバレあり。
映像について
まずは映像的な感想を。
最初のETMLが流れてくるところはちょっと興奮した。なるほどこうはじまるのかと。映画のわくわく感が感じられて凄くよかった。
襲い来るWarBirdや、PassengerBirdの形、ピンクを基調とした日本の街や、拡張現実がどう情報を表示するかなど、なかなか小説で想像できなかったところをうまく形にしていた。特にメディケアの医療パッチは自分の想像していた物とはかなり違った物だったのでおもしろかった。自分の想像では本当に資格のパッチを想像していたのだが、映像では球状だった。じつはその点に関しては屍者の帝国も屍者の動きや霊素書き込み機でうまく表現していたので、この三部作は小説に登場する物体の表現に関してかなり情熱を注いでいるんだなと思う。
最初の盛り上がりのWarBirdとの戦闘もスピード感がありよかった。ひまわり畑の中を突っ切っていくところは結構燃えた。ただ少し気になったは最初の先頭でWarBirdに対して放っていたのがRPGではなくちょっと未来的なロケット砲だったこと。ケル・タマシェクからもらったRPGを使わないで自前で持ってきたであろうロケット砲でWarBirdを撃墜した意図はなんだったのだろうか。未来的な車からRPGを放つというのはちょっと絵的にアレだったからだろうか?割と小説であっさりと片付けていた描写を魅せる映像にするためには近代的なロケット砲と、オペレータによる誘導の描写が必要だったのかも知れない。最初の盛り上がりとしては結構よかったと思うので、少し気になったのは自分がRPGが好きだからかも知れない。RPGいいよね。
PassengerBirdに乗っているところはPassengerBirdってこんな形なのかとおもしろく思った。小説からは普通の飛行機ではないということはわかったけど、自分の想像ではちょっと形の変な飛行機ぐらいのイメージだった。それが今回映像化されてあまりに飛行機離れした形で驚いた。こんなのが空を飛ぶほど技術力がおかしい世界。未来館感出していたと思う。それが着陸するプラットフォームも塔もとても奇妙な形をしていて少なくとも自分たちの世界とは違う世界というのがよくわかっておもしろかった。
日本のシーンもピンクを基調とした色が建物で使われていると小説でよんで、どんな物かと思ったら全体的にくすんだピンク色で、想像していたよりも印象が暗かった。やはりどぎついピンクだと生活する上で支障をきたしそうなのでこれぐらいの色がこの世界で生きている人にはちょうどよくなっているのかも知れない。この街を映像で見て劇中のトァンが感じる不快感が一緒に感じられるようでよかった。皆がこの色を最適だと思っている世界があって、その世界を目の当たりにしたときのはっきりとした不快感。少しもこの街に住みたいと思えないところがうまく出ていてよかった。
拡張現実のシーンはいろいろな情報が出ておもしろかったけど、人が多いと余りにも多い情報が表示されるので優しさと思いやりを中心に据えたハーモニーの世界観とは最初はちょっとあわない気がして気になった。でもこれに人々が慣れているならあんまり問題はないのかも知れない。そういう所に息苦しさを観客に与えることもひょっとしたら意図としてあるかも知れない。情報が過多で圧迫感を与える表現をすることでこの世界の気持ちの悪さを表現している。
内容について
内容については小説でだいたい知っているからいいんだけど、映像化してはじめてわかったことがある。物語の中盤、というかキアンが壮絶な自殺を遂げたあとからトァンも父親ヌァザにあうまでが淡々としていて映像としてはおもしろいところがあんまりないということ。車での移動は座っているだけだし、調査をしていくとき調査対象は質問に答えるだけ。結構だれた。とはいえしょうがない部分でもある。映像に不向きなシーンってのはこの小説では結構あると思う。物語で盛り上がる最初とヌァザとの逃走、ミァハとの邂逅はちゃんと盛り上がったので、そこに至るまでの静けさだと思えば割と受け入れられる。
小説とちょっと違うヌァザとのシーンはまぁ映画としては必要だよねという感じ。本来はトァン自らが回答にたどり着いたはずのハーモニープログラムの副作用は、ヌァザが教えることによってトァンははじめて気づく。ミステリーのように真相が次々と現れる構成上、トァン自らが気づくよりヌァザが教える方が衝撃が大きくてエモーショナルでよい。ヌァザが最後に倒れるシーンも小説では何も言葉を発せず死んでいくが、映画では「父親らしいことをした」という。これもエモーショナルな効果を狙っている。このシーンはできれば余計なことを言わないで死んでいってもらった方が個人的にはよかったけど、それも好き好きだろう。
最後のシーンのミァハと決着をつけるシーンは割と大きく変えていて驚いた。小説では「あなたの望んだ世界は、実現してあげる。だけどそれをあなたには。与えない。」といって銃を2発撃つ。父親と友人キアンの復讐とを行うのが小説での結末。映画では「私の好きなあなたでいて(だったかな?)」といって銃を1発撃つ。トァンはミァハがミァハでいる間にミァハを殺す。それが映画の結末。
どちらも個人的な理由という点では同じだが、結末の迎え方が全然違う。小説では復讐、映画では愛(執着?)。小説でもトァンはミァハを愛していたが、映画ではそれをより効果的に拡大した。最後の銃声で暗転するところわりと投げっぱなしな感じがして個人的には余韻があってすごく好き。
最後に
最後にすこし声優の感想。御冷ミァハ役をやっていた上田麗奈の声が可愛いんだけど冷たく感じられてとてもミァハにあっていた。可愛いんだけどとても冷たい。上田麗奈がミァハをやっていると言うだけでこの映画を見る価値はあると思う。
他にもDammyMeとかたばこを吸っているシーンが少ないとか(戦場を喫煙所代わりにしているという台詞が聞きたかった)生府と政府は音が同じだから小説読んでないとわからないんじゃないかとか、大災厄についてほとんど語られていないとかいろいろ気になるところはあったけど、総じてうまくまとめられていて、いい感じにアレンジされていてよかったんじゃないかと思う。
重ね重ね虐殺器官が間に合わなかったのが残念でならない。虐殺器官でめちゃくちゃになった世界の延長線上に、極端な世界としてハーモニーがあるというながれが良いと思う。とはいえどちらかというとハーモニーは淡々として地味な印象があるので、これをやったあとの虐殺器官は凄いドンパチなんだなと期待が持てるのはわりと効果的かも知れない。Project-Itohの最後の虐殺器官も楽しみに待とうと思う。